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「志ん朝」と「談志」。何が違ったのか?

大事なことはすべて 立川談志に教わった第8回

■「俺の理論も、あくまで仮説だ」

 もし万が一、師匠が一旦確固とした「落語は人間の業の肯定である」という定義を金科玉条のように守るだけの人だったら、もっと長生きしていたに違いないと確信しています。むろん、当人はそんな安穏な生き方を猛烈に拒否していましたが。
「俺の理論も、あくまで仮説だ。俺を陵駕する理論、持ってこい。いつでも受けてやる」と、相手が前座ですら、ずっと言い続けていたのがそのなによりの証拠です。
 今思うと、師匠は『現代落語論』の末尾に「落語が能のような道をたどる危惧」を記していました。そんな自らの理論にまるで好んで自縄自縛するSM嬢のように、「能のような道をたどらせてなるものか」という気概も込めて、自ら確立、定義した哲学すら進化、深化させてしまうのも師匠の魅力でした。
 いや、「落語は人間の業の肯定である」という一番最初の理論を、より社会全体にも押し拡げ、より人間に寄り添った形で展開し、つなげようとしたのが「世の中の大半は虚である」という「唯虚論」なのでしょう。
 そしてついには、そんな「落語の理詰め」を究極までに追及した人だからこそ、「理詰め」では解釈分析できない世界を描くという「落語の『世界最終革命』」を、晩年の「イリュージョン論」にみようとしたのでしょう。

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立川 談慶

たてかわ だんけい

昭和40(1965)年長野県上田市(旧丸子町)出身。1988年慶応義塾大学経済学部を卒業後、㈱ワコールに入社。セールスマンとしての傍ら、福岡吉本一期生として活動。平成3(1991)年4月立川談志門下へ入門。前座名立川ワコール。平成12(2000)年12月、二つ目昇進、談志より「談慶」と命名。平成17(2005)年4月、真打ち昇進。平成22(2009)年から二年間、佐久市総合文化施設コスモホール館長に就任。平成25(2013)年、「大事なことはすべて立川談志(ししょう)に教わった」(KKベストセラーズ)出版、以来、「落語力」「いつも同じお題なのになぜ落語家の話は面白いのか」「めんどうくさい人の接し方、かわし方」「落語家直伝うまい!授業のつくり方」「なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか」「人生を味わう古典落語の名文句」など「落語とビジネス」にちなんだ書籍の執筆。NHK総合「民謡魂」BS日テレ「鉄道唱歌の旅」テレ朝系「Qさま!」CX系「アウトデラックス」「テレビ寺子屋」などテレビ出演も多数。現在、東京新聞月一エッセイ「笑う門には福来る」絶賛好評連載中


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